「ドル円は午前9時55分の仲値(なかね)に向けて上がる」── 輸入企業のドル買いが理由とされる、日本で最も有名なFXアノマリーです。ドル円16年・4,329営業日で数えると通説どおり上がっていました。平均+0.91pips、誤差の3.6倍。実在は確実です。
問題はその先でした。往復コスト1.0pipsを引くと−0.09 ± 0.25pips ── プラスなのかマイナスなのか、判定できません。「取れない」と言い切れるほど負けてもいない。つまりこの手法の成否は、あなたの往復コストが分岐点の上か下かで決まります。その分岐点は0.91pipsでした。
🔬 この検証の要点
各営業日を前日までの地合いで分けると、円安期+1.97/レンジ期+0.58/円高期−0.18と大きく違いました。円高期はゼロと区別できません。「いつも上がる」という体感のかなりの部分は、当時の円安トレンドが作っていたものです。── ただしトレンドのないレンジ期でも+0.58pips(n=1,655)で、輸入企業のドル買いという実需の押し上げ自体は実在します(伊藤&山田2017・NBERも同じ向きを確認)。錯覚でもあり、本物でもある。ただし「いつでも」ではありません。
55分の上げ幅+0.91pipsのうち、最後の5分(9:50→9:55)だけで+0.60pips(±0.11)── 全体の3分の2です。逆に最初の30分は平均でマイナス寄与でした。9時30分から入ると+1.04pips(±0.18)で、55分待つより平均が大きく、ばらつきも小さくなります。
これは実務では厳しい話です。利益の出どころが最も混み合う5分に集中しているということは、滑りもそこに集中するということだからです。下の注意書きを必ず読んでください。
⚠️ 分岐点の上にいても、こうなると割ります
🔬 「やり方が雑なだけでは?」への回答
早朝3時から仕込むと値幅は大きくなり、かつては取れていました。年代で切ると2010-13年+4.80pips → 2022-25年−0.03pipsと、誤差の2.8倍の減衰です。「アノマリーは知られると自壊する」の実例に見えます(公表後アノマリーは平均58%減衰=McLean&Pontiff)。
ところが区間ごとに分解すると、話が変わりました。
🔬 減衰していたのは、どの区間か
痩せ細ったのは夜間の値動きであって、仲値のトレードではありませんでした。早朝版の右肩下がりは本物ですが、その原因を「仲値が食い尽くされた」と読むのは誤りです。ひとつの数字が減っていても、減っている場所を確かめないと、原因を取り違えます。
仲値の「上がって戻る」は本物だった ── それでも1円も取れない理由(note)
仲値の押し上げは確かに実在します(+0.91pips・誤差の3.6倍)。取れるかどうかは、あなたの実効コストが0.91pipsの上か下かで決まります ── ただし利益は最後の5分に集中し、そこは最も滑る5分でもあります。「有意に動く」と「コスト後に勝てる」は別で、そのあいだには「どちらとも言えない」という広い領域があります。
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